現在、AIブームの真っただ中にあると言えるかもしれませんが、果たして現在のAIは、人間が認識する「時間」を本当に理解しているのでしょうか。
たしかに、最新のAIはテキストやデータの順序を記憶し、それをもとに予測を行います。
しかし、それは「Aの後にBが起きた」という系列的な時間の関係を学習しているに過ぎないとも言えます。
これは、時間を“構造的に”理解している状態とは異なるのではないでしょうか。
AIが時間を単なる並び順の情報として扱っており、変化や因果関係を支える枠組みとしての時間構造を認識できていないとすれば、それは、人間の脳を模して設計された「ニューラルコンピューティング」によって構築されてきたAIにとって、ひとつの大きな課題であると言えるのではないでしょうか。
時間を構造に加えるという発想:多様体による表現
そういった問題に対するひとつの解決法として、「多様体」という数学的構造を用いるアプローチがあります。
多様体とは
多様体とは、どこでも好きな所に局所座標系が書けるような空間です。
例えば、1次元多様体は、直線や円などで、局所的には、小さく見るとまっすぐな線に見えます。2次元多様体は、球面、ドーナツ型(トーラス)などであり、小さく見ると平面に見えます。
このように、3次元、4次元と続けていき、m本の座標軸を持つ座標系を、m次元座標系と呼び、好きな所にm次元座標系を描ける空間が、m次元多様体となります。この意味で、平面や曲面は、x軸・y軸という2次元のxy座標系を持つため、2次元多様体であることがわかります。
ここで、時間軸を「1次元」として、他のN次元の属性座標軸に加え、多様体(manifold)構造として捉える発想が出てくるのです。
🐾 イリオモテヤマネコの縄張りは“時間”によって変わる
この時間軸を考慮した捉え方は、動物の生態モデルなど現実の現象にも当てはまります。
たとえば、イリオモテヤマネコの縄張りをAIに学習させるとしましょう。単に「空間的な座標」などを与えただけでは、正確な縄張りの予測は困難です。
なぜなら、イリオモテヤマネコは時間軸を分けることで、縄張りを重ね合わせて構成しているからです。
イリオモテヤマネコは、狭い地域におよそ100匹もの個体が棲息し、テリトリーが狭すぎるので、時間軸を用いて縄張りを分け、空間的には共有して共存する術を身につけたのではないかと分析されています。すなわち、イリオモテヤマネコは、面積の2次元、空間の3次元ともう一つの次元として時間の次元をわけて棲息するという知恵を身につけたのです。
つまり、縄張りは「空間的な広がり」だけではなく、時間と空間の相互関係によって構成されているのです。
このように、時間軸を構造に加えることで、AIは現象の背後にある因果関係をより完全に理解できるようになると考えられるのです。

隠れた因果関係を時間構造があぶり出す
さらに言えば、ある属性(たとえば行動パターン)の変化を、他の属性(気温や個体の性別など)を固定したまま、時間軸に沿って観察することで、属性間の動的な因果関係をより詳細に明らかにすることができます。
逆に、時間軸を無視してしまうと、これらの変化は曖昧になり、因果構造そのものが見えなくなってしまう可能性があります。
AIが因果関係を完全に捉えるためには、時間を構造として捉える必要がある
AIがより深い「理解」に到達するためには、単なる順序学習を超えて、時間を属性空間の中に構造として組み込む必要があります。多様体による表現はその一つの具体的な道筋を示してくれます。
時間を構造として捉えることで、AIはさらに、
- 変化の背景
- 因果の流れ
- 動的な現象の意味
を読み取る力を得ることができると考えられます。
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