古代ギリシアの数学者ピタゴラスは、「万物は数でできている」と唱え、その思想をもとに数学の教団を組織しました。
そして、数にまつわるもう一つの重要な数学的命題が、300年近く前から知られています。
それは、
「すべての偶数は2つの素数の和で表せる」
「すべての奇数は3つの素数の和で表せる」
という、美しくシンプルなものです。
今回は、「私たちの世界は、素数から作り出されたのかもしれない」——
そんな話題に沿って、素数が私たちの世界に果たしている役割を探っていきます。
ゴールドバッハ予想とは
ゴールドバッハ予想とは、すべての偶数 \( 2m \) は二つの素数の和で表せるというものです。具体的には、
\[
2m = p_1 + p_2
\]
のように表せるとされています。
実際に、
\[
10 = 3 + 7, \quad 16 = 5 + 11
\]
のように表せます。
また、すべての奇数 \( 2n + 1 \) は三つの素数の和で表せると考えられています。
\[
2n + 1 = p_3 + p_4 + p_5
\]
例えば、
\[
9 = 2 + 2 + 5
\]
といった具合です。
ここで、\( m, n \) は整数、\( p_1, p_2, \ldots \) はすべて素数を表しています。
これをもとに考えると、どんな整数(数)も素数の和で表すことができます。
\[
2m + (2n + 1) = p_1 + p_2 + p_3 + p_4 + p_5
\]
素数の和と積で表される整数
ここで、偶数と奇数をかけ合わせてみます。
\[
2m \times (2n + 1) = (p_1 + p_2)(p_3 + p_4 + p_5)
\]
これを展開すると、 \[
p_1 p_3 + p_1 p_4 + p_1 p_5 + p_2 p_3 + p_2 p_4 + p_2 p_5 = s
\]
となります。よって、すべての整数(数)は、素数の積の和で表されると言えます。
この \( s \) は素数の積の形でも表せるはずで、
\[
s = p_6 \times p_7 \times p_8 \times \cdots \times p_q
\]
という形に因数分解できることになります。
ここで具体例を見てみましょう。
たとえば、
\[
10 = 3 + 7, \quad 9 = 2 + 2 + 5
\]
であれば、
\[
10 \times 9 = (3 + 7)(2 + 2 + 5)
\]
となり、展開すると
\[
3 \times 2 + 3 \times 2 + 3 \times 5 + 7 \times 2 + 7 \times 2 + 7 \times 5 = s
\]
これにより、すべての数は素数の積と和からなる多項式的な構造を持つと解釈できます。
数学的世界の構造について
さらに、数学の世界そのものについても考察してみます。
この世の中は連続した実数ではなく、離散的な値(離散値)で構成されていると考えられます。つまり、再帰的に列挙可能(再帰的に可算)な有理数に、これまた再帰的に連分数表示できる平方根のような代数的無理数や、円周率のような超越数を加えた、「拡張された有理数」が基本になっています。
再帰的に可算とは、すべての要素を順番に列挙(リストアップ)できるという意味です。たとえば、ある種類の数が「再帰的に可算」であるというのは、「その数を次々に取り出していくルール(手順やプログラム)が存在する」ということです。
この考え方は、数学者ゲーデルが用いた重要な概念の一つです。たとえば、有理数(分数で表せる数)はこの「再帰的に可算な集合」の代表です。なぜなら、
$$
\frac{3}{4}, \quad \frac{7}{2}, \quad \frac{-5}{1}
$$
のように、すべての有理数は分子と分母の組み合わせで表すことができ、一定のアルゴリズムで順番に並べていくことが可能だからです。
また、有理数をもとにして作られる数の中には、「連分数表示」という形で表されるものもあります。たとえば、平方根 \(\sqrt{2}\)の
\[
\sqrt{2} = 1 + \frac{1}{2 + \frac{1}{2 + \frac{1}{2 + \cdots}}}
\]
のような形は、「再帰的な」繰り返しのパターンがあるため、やはり有限の手順(アルゴリズム)で求めていくことができます。
一方で、円周率 \( \pi \) のような超越数は、連分数表示が非周期的かつ複雑ではあるものの、任意の桁まで計算するアルゴリズムが存在します。これは \( \pi \) が「計算可能数(computable number)」であることを意味しますが、必ずしも「再帰的に可算な集合」に含まれるということではありません。
したがって、円周率 \( \pi \)は「拡張された有理数」として定義されます。
有理数は、分母の数をかけることで整数に帰着できるため、数の構造は整数を基礎としていることがわかります。これは多項式の両辺に分母をかけて考える場合にも同様です。
整数や有理数以外の無理数に関して、上で述べた通り、一部の無理数(例えば、円周率\( \pi \)や 平方根 \(\sqrt{2}\)など)は、有限の手続きや計算によって値を近似できるため、「計算可能」とされています。こうした数は再帰的に定義可能であり、数学的にも取り扱うことが可能です。
しかし、一般の無理数の多くはそうではありません。大半の無理数は「再帰的に定義できず(≒計算不可能)」、有限の手続きではその具体的な値も性質も決定することができません。これらの数は数学的な対象としては定義されていても、性質を「証明する」ことが困難、あるいは不可能です。
このような現象は、ゲーデルの不完全性定理が示した本質の一つでもあります。
それは、「正しいとも間違っているとも判断できない命題」が存在しうること、また、それに対応する数や構造の「存在」すら数学的に確定できない場合があることを意味します。
よって、実数軸上に「稠密に」ひしめき合っているとされる、一般の(再帰的でない)無理数に対しては、その存在や性質を証明・否定することが本質的にできないのです。

さらに、ドイツの著名な数学者、レオポルド・クロネッカーは、こう述べたことで有名です。
”整数は神の作ったものだが、他は人間の作ったものである”
(Die ganzen Zahlen hat der liebe Gott gemacht, alles andere ist Menschenwerk.)
多項式とAIの関係
また、上記より、すべての数、すなわち加算・乗算の計算結果は素数の多項式の形に成る事を意味します。
さらに多項式は和と積で表現されますが、この多項式を変数とし、ノード間の信号として使い、最終出力を得るモデルが「GMDH(Group Method of Data Handling)」です。これはAIの学習計算における基本テンプレートとして非常に理にかなっていると考えられます。
◇ディープラーニングは本当に「学習」しているのか──GMDHに見る学びの本質。
◇ニューラルネットワークにおける電気的モデルの限界。GMDHに見る磁気的アプローチの可能性。
まとめ
今回の考察から、数が素数の和と積の形で表されること、そして数学の世界が離散的な構造で成り立っていることが見えてきました。
このように、整数論的な観点から数学、ひいては世界を見つめると、その構造がよりくっきりと解像度を上げて浮かび上がってくることがお分かりいただけたと思います。
それでは、今回はここまでです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
もし面白いと感じていただけたら、ぜひまた立ち寄ってくださいね。
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